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参加型システム研究所第6回定期総会記念講演

「アジア・ルネッサンス時代の日本の選択、市民の役割」

久保孝雄 アジアサイエンスパーク協会名誉会長、神奈川県日本中国友好協会会長

 2005年2月26日(土)オルタナティブ生活館スペースオルタにて開催した参加型システム研究所第6回定期総会での記念講演をまとめたものです。

  1.「アメリカ時代の終わり」の始まり

 イギリスBBCが世界21カ国で行った世論調査(04.11−05.1)によると、ブッシュの再選で「世界がより危険になった」と答えた人がフランス、ドイツではともに77%、イギリスでも64%など、反応は厳しかった。選挙直前(04.10)の朝日新聞の世論調査では、日本国民も74%が「ブッシュになってからアメリカは悪くなった」と答え、ブッシュを嫌いだと答えた人も66%あった(朝日04.11.6)。
 ブッシュの再選は、米欧のミゾをより深くした。仏ル・モンド紙は「(ブッシュ再選は)米国が欧州から益々遠くへと漂流しつつあることを示した」と書いている。
 ブッシュ大統領は最近の欧州歴訪で仏、独との「和解」を演出したが、イラク問題はじめ世界観や政治手法など本質的なミゾは埋まらなかった。
 このように、アメリカは国際的孤立を招き、政治的、経済的な苦境に陥っている。クリントン時代にIT革命で築いた世界最強の経済−失業率は史上最低の2%台まで落ち、財政赤字を黒字に転換した−も、ブッシュに変わってイラク戦費も加わり、あっという間に膨大な財政赤字(04年、4125億ドル)と貿易赤字(04年、6000億ドル超、計1兆ドル余)に転落し、ドル暴落の不安に駆られる状態に陥っている。
 アメリカンドリームの輝きは消え、今や反米感情とEUの影響力が〈世界中で〉高まる一方」になってきて、「アメリカの時代の終わり」が確実に始まりつつある。
 このように、孤立し、凋落するアメリカにベッタリ追随している小泉内閣は、世界の大勢に逆行する異常に突出した存在になっている。最近の日米安保協議における「共通の戦略目標」や「防衛協力の強化」などの合意は、米国の新たな世界戦略をそのまま受け入れ、世界規模で日米の軍事一体化を進めようとするもので、憲法はもとより日米安保条約をも大きく逸脱する危険で時代錯誤の合意である。

 2.「ユーラシア・ダイナミズム」と「アジア・ルネッサンス」

 米国の一国行動主義が世界に災厄をもたらしている一方、最近、「ユーラシア・ダイナミズム」とか、「アジア・ルネッサンス」ということが言われているが、これはどういう意味だろうか。
 まずユーラシア・ダイナミズムだが、ヨーロッパからアジアに至るユーラシア大陸に、いま政治的、経済的なダイナミズムが感じられる。EU(欧州連合)は、25カ国の拡大EUとなり、人口でアメリカを上回り、経済規模でもアメリカと並ぶ巨大な共同体を創り上げた。共通通貨ユーロはドルの支配を脅かす国際通貨として急速に存在感を高め、多極化に向かわせる大きな流れをつくりつつある。
 長らく混乱を続けてきたロシアもようやく落ち着きを取り戻し、この数年、年率5−8%の経済成長を遂げはじめ、政治的にもアメリカとはクールに付き合い、フランス、ドイツとの同盟を重視する一方、中国とも戦略的パートナーシップを築き始めている。
 インドもIT革命の波に乗って産業の近代化を進め、中国に次ぐ潜在大国として注目を集めている。政治的にもパキスタンと和解し、中国との友好関係を深めるなど存在感を増しつつある。
 経済成長率でみても中国9%、韓国5-6%、ロシア 5-8%、インド 6%など、ユーラシア諸国の経済的ダイナミズムが目立っている。
 最近、アメリカの国家情報会議(NIC)が2020年の世界情勢を予測した注目すべき報告書を発表したが、このなかで「世界の主要なプレーヤー」として中国とインドが台頭することにより、21世紀は両国に率いられた「アジアの世紀」になる、地政学上「劇的なインパクト」を与えると指摘し、両国の台頭に伴う摩擦をいかに抑えるかが世界安定化の鍵になるとの見解を示している。
 アジアのなかでも、とくに中国は1979年に改革開放路線へ転換していらい、20年以上も平均10%近い経済成長を続け、00年には08年の北京オリンピック、10年の上海万博を目指して、引き続き8-9%の高い経済成長が続くとみられ、アジアと世界における存在感を一段と高めてきている。
 中国を中心とするアジアの台頭を指して、韓国・慶北大学のキム・ヨンホ教授(金大中政権の産業資源部長官)は「千年ぶりのアジア・ルネッサンス」と呼んでいる。
 他方では、200年ぶりのアジア・ルネサンスという見方もできる。19世紀はじめごろ、中国(清)は世界の総生産の4割近くを占め、インドを含めると世界の総生産の半分近くをアジアが占めていた。
 いま世界のGDPの約3割をアメリカが占め、日本13%、中国は4%ぐらいだが、10年−15年後には中国が日本を抜いて世界GDPの15%近くを占めるようになり、日本、韓国、インド、ASEANを含むアジアで4割を占める時代がくると予測される。まさに200年ぶりのアジア・ルネッサンスである。

 3.日中関係の構造変化と新たな課題

 アジアの驚異的な経済発展によって、世界にもアジアにも、これまでの常識を覆すさまざまな構造変化が起きている。日中関係における二つの構造変化とそれが及ぼす影響について考えてみたい。

 @総合国力で中国が日本に追いつき、追い越すことが確実になってきた
 第1は、日中間の総合国力における構造変化である。総合国力において中国を凌駕し、長らくアジアNo.1の地位を保ってきた日本が、ここ数年で急速に中国に追いつかれ、現状ではほぼ均衡しつつあり、近い将来、No.1の座を中国に明渡すのは確実と見られている。
 昨年の中国のGDP(国内総生産)は13兆6500億元(約180兆円、1兆7600億ドル)で、イタリアを抜き、英、仏と肩を並べるところまできた(米10.9兆ドル、日4.3、独2.4、英1.79、仏1.75、伊1.46 03年)。2020年頃にはGDPで日本に追いつき、追い越すとの見方が有力になっている。
 因みに、購買力平価によるGDPでは、現在すでに中国は日本を上回って世界第2位である(世界銀行推計=米国10.45兆ドル、中国5.98、日本3.65、インド2.66、ドイツ2.16 02年)。
 巨視的に見た日中間の歴史から言えば、日本が中国より優位に立ったのは、2000年の歴史のなかで僅か130年に過ぎない。問題は、「先進中国、超先進日本」となるか「先進中国、衰退日本」となるか、これからの10年が日本の運命を決する分かれ道になるということである。

 A日中経済は相互補完から統合・一体化へ進み始めた
 第2は、経済の分野では日中関係がより緊密化し、日本経済の対中依存度が高まり、事実上統合・一体化への勢いを見せ始めたことである。中国との連携、共生を否定したら日本経済が立ち行かなくなることが明白になってきた。
 大企業だけでなく中小企業も含め、24,000社の日本企業が中国に進出している一方、04年の中国との貿易は大幅に伸び、香港と合わせた貿易総額は22兆2005億円に達し、戦後初めて米国(20兆4795億円)を上回り、日本にとって貿易の最大の相手国になった。
 最近、日本経済がやや明るさを見せているが、その最大の要因は対中国輸出の急増にあると見られている。景気回復要因の7割が輸出の拡大によるが、その80%が対中国輸出の急拡大によるものである。中国は日本企業にとって重要な生産拠点であり、相次ぐ工場移転によって日本の製造業に「空洞化」をもたらしている反面、広大な市場として大きな利益を生み出している。
 日本の主要都市(大阪、神戸、横浜、川崎、北九州など)が、中国企業の日本誘致により地域活性化を図るべく、中国へ出向いて「投資セミナー」を開催するなど、積極的なシティセールスを行っている。中国企業による日本企業の買収も始まっている。こうした日中経済関係の基調の変化も、日中関係の第2の構造変化の結果である。

 B新しい現実に国民の心理と認識が立ち遅れつつある
 二つの構造変化による「新しい現実」に対して、国民の認識と心理に大きな立ち遅れが見られる。この認識のギャップは日中双方に見られる。中国が、急に巨大な存在感をもってたち現れてきたため、日本を脅かす強力なライバルとみて「中国脅威論」が生まれる一方、「どうせ中国なんか成功するわけがない。いずれ大混乱が起こる」といった「中国崩壊論」が唱えられている(石原都知事など)。
 防衛庁は最近の新防衛大綱で中国の日本攻撃の危険(海洋資源対立、尖閣諸島、台湾問題)を分析し、これに対する防衛力の整備を打ち出している。
 こうした危険で不毛なナショナリズムの相互エスカレーションを抑制するには、あらゆる手段を尽くして相互の現実認識を深め、相互理解を促進し、トラブルが起きても冷静に対処し、感情問題に発展するのを防止して行く以外に道はない。草の根からの両国民の交流と友好活動の重要な役割もここにある。

 C日中相互の戦略的位置づけの再構築が必要
 第4に国家レベルの課題として、日中相互の戦略的位置づけの調整が必要になっていることだ。日中関係の「新しい現実」を踏まえて、どのような新しい日中関係を築いていくべきかという戦略的認識と外交政策の再構築が迫られている。
 中国はすでに新しい世界戦略のなかに日本重視を位置づけ、「対日関係の新思考」も含めて活発な議論が行われており、「日中戦略対話」を提唱するなど積極的に動いているが、日本側では一部マスコミが鼓吹する嫌中論や反中論に影響され、さらに日米同盟の枠組みに制約されて、中国を戦略的にどう位置づけ、どう向き合うのか自主的な決断ができず、曖昧なままである。むしろ「戦略不在」で国交正常化いらい最悪の状態にある。21世紀を展望するとき、日米基軸とともに日中関係を対外戦略のもう一つの基軸として位置付けるべきである。

D「アジア経済共同体」へ向けて日中韓の緊密な協力が不可欠
 東アジアにおける自由貿易地域(FTA)づくりでも中国が先行し、日本が立ち遅れている。
 中国は01年にASEANとのFTA交渉を始めたが、2010年までの交渉期限を前倒しする一方、日韓両国にも交渉を呼びかけるなど、東アジアのFTAづくりに積極的に動いている。日本は中国のFTA交渉申し入れに「まだ先の話」として消極的だが、シンガポールのゴーチョクトン前首相は「ASEANがめざす<東アジア共同体>のカギを握るのは、日中韓のFTA交渉だ」と述べて、日本の消極姿勢を批判した。
 欧州で長い間対立してきた独仏が和解してきたように、日本はこれまでの消極姿勢を改め、中国、韓国と真の和解を達成し、まず日中韓で「北東アジア経済共同体」を、さらにASEANを含む「東アジア経済共同体」を、そして経済統合を土台に将来の「アジア連合」をめざし、中国、韓国とともに中核的役割を果たして行くことが、日本の生きる道である。

 終わりにー「アジア共同体」を支えるアジア市民社会ネットワークを

 日本の国際関係の最大の矛盾は、貿易額の5割をアジアが占め、経済的には米国より遥かに強くアジア諸国と結びついているのに、政治的には完全なアメリカ追随になっていることである。このため「日本はアジアに真の友人を一人も持っていない」と言われ続けている。これを早急に正し、アジアとの共生関係を築いていくことが、日本の対外戦略の基本課題である。
 アジアとくに中国、韓国との新しい関係を創り出すには、政府任せにせず、草の根レベルの市民交流によって、新しい現実への相互理解を深め、将来の「アジア共同体」を日中韓の市民社会のネットワークに支えられたものにしていくことが市民的課題となる。その意味で、三国間で自治体やNGO、NPOなどの提携や交流が、分野を広げながら盛んになっていること、市民レベルで音楽、映画、TVドラマ、スポーツ、料理、旅行などの多様な文化交流が大きく発展していることに新しい可能性が感じられる。
 


久保孝雄(くぼたかお)

(特非)参加型システム研究所理事長
1975年長洲知事の政策スタッフ(特別補佐官)として神奈川県庁に入る。87年副知事に就任。91年日本初のサイエンスパーク「かながわサイエンスパーク」の運営会社(株)KSP代表取締役社長に就任。99年川崎市産業復興財団理事長、2003年同財団顧問兼新産業政策研究所長に就任(現職)。神奈川県日中友好協会会長、アジアサイエンスパーク協会名誉会長、中国・藩陽大連高新技術産業開発区東北大学各顧問。韓国・大邱テクノパーク顧問。ミャンマー・ビジネス開発研究会会長。主な著書に「市民参加」(現代都市政策講座2共著 岩波書店)、「産業社会の将来」(共著 日本評論社)、「政策」(岩波講座・自治体の構想・3 共著 岩波書店)、「知識経済とサイエンスパーク」(編著 日本評論社)。