TOP > 定例研究会

第40回定例研究会

「日米安保条約と神奈川の基地問題」

前田哲男 東京国際大学国際関係学部教授


T 神奈川県の米軍基地

 「神奈川県と基地」を考えると、それは、そのまま日本の近代史ではないかと思います。明治維新は「神奈川条約」という不平等条約によって開かれ、横浜の外国人居留地という、いわば治外法権の地容認として日本に持ち込まれました。現在の「安保条約と地位協定」の関係です。やがてそれは明治新政権のもとで、1884年、横須賀に「海軍鎮守府」が置かれるというかたちに展開します。「国防と基地」の問題もここから発していく。そう考えると、神奈川は、日本の基地問題発祥の場所といっていいでしょう。
 このように、日本の近代外交・安全保障政策の揺り籃の地は、まさに神奈川であったわけです。横須賀鎮守府は、現在は、アメリカ第七艦隊の根拠地になっています。鎮守府時代は1884年から1945年までの61年間、米海軍基地時代も今年で61年目になるので、つまり、やがて米軍基地時代のほうが長いということになります。そこにいま、さらに原子力空母の配備地という、新たな任務が与えられようとしている。ここにも近代日本史をつらぬく「黒船と砲艦外交」の痕跡、あるいはまた神奈川県と軍事基地の因縁のようなものをみることができるだろうと思います。
 敗戦以後における基地とのつながりもまた、神奈川県から始まっています。1945年8月29日、マッカーサー元帥を乗せた輸送機が厚木飛行場に着陸し、そこから「日本占領」が始まりました。翌30日、横浜に移動したマッカーサー司令部は、横浜の主だった公共施設、焼け残った施設をことごとく接収し、ここから1952年まで「連合軍占領下の日本」という時代が始まるわけです。そういう意味で「第2の開国」も、敗戦、占領という事実を通じ神奈川県と切っても切れない関係にあります。
 このように明治期にさかのぼり、また、敗戦後からたどっても、「神奈川県と基地」は分かちがたく歴史の中で結ばれている。それが、いま厚木の、横須賀の、座間の、根岸の、池子のというように、目に見ることができる風景の原形をつくっています。

1)特徴
 神奈川県の米軍基地の特徴をあげれば、面積では全国3番目の米軍基地の所在地となります。ただ、土地の広さにすると北海道が2番目だが、北海道の場合、名目上は米軍基地だけれども、日米地位協定第2条第4項B(24B)により、99%まで「共同使用施設」で、じっさいに使っているのは自衛隊です。米軍人はほとんどいない。したがって米軍専用基地という意味では、神奈川県は、実質的に沖縄に次ぐ「第2の基地県」といっていい。
 一方、神奈川の基地従業員の数は約9千人、全国基地従業員の約36%が、横須賀、厚木、座間を中心とする神奈川県の16基地で働いていて、人の面では沖縄をも上回っていて全国1位です。
 さらに、「基地の総合デパート」としても特徴ある。軍港あり、飛行場あり、また在日米陸・海軍の司令部あり、通信基地など神経中枢から胃袋にあたる総合補給廠、さらに住宅地区まで、あらゆる基地機能がここに集中しています。
 横須賀には、第七艦隊というアメリカ最強の空母艦隊および潜水艦の部隊が配備されています。アメリカには今、11隻の航空母艦があり、すべてがアメリカ本土の港を母港にしていますが、唯一、キティホークのみが、外国の地、横須賀を母港にしています。そればかりでなく、日米安保条約によれば、在日米軍の活動は「極東の範囲」という明確な条約上の制限があるはずですが、現実には極東とはとても呼べない「東南アジア」や「中東」、「インド洋」に横須賀から空母艦隊が出動し、原子力潜水艦が派遣されています。そして今度、座間基地に、同じように「極東」からはみ出る任務範囲をもつ「陸軍第1軍団」が配備されようとしているのです。そうなると「基地の総合デパート」というよりアメリカのための「海外戦争の総合デパート」というほうがふさわしいのかもせれません。

2)活動
 当然ながら、軍事基地は戦争のための根拠地であり、そのための活動の培養地であって、アメリカが第二次世界大戦以後、絶え間なく世界各地で地域戦争を戦ってきたことが明らかな以上、これら神奈川県の各種基地が、戦争と無縁であったなどということは考えられません。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争・・・そしてその間ずっと続いた朝鮮半島に対する睨み、さらに冷戦期のソ連に対する海からの包囲、冷戦後におけるアフガニスタン、イラクなどに対するミサイル攻撃、思い起こせるかぎりアメリカの軍事政策、あるいは地域戦争の実態を見ていくと、「抑止力である」、「日本を守るためにいるのだ」などというのは、飾り文句のようなもので、アメリカの戦争のための根拠地であり、戦争があるたびに神奈川県の基地は使われ、最大の威力を発揮してきたというべきでしょう。ベトナムに対する「北爆」を行なったのも、湾岸戦争で最初の巡航ミサイルを発射したのも、いま、アフガニスタンやイラク国土に攻撃を加えているのも、横須賀から出動した空母艦隊なのです。そうした事態に、アメリカ本土からよりすばやく対応できるので、神奈川県に基地を置いているのです。日本の安全より「アメリカの国益」が神奈川基地群の存在理由です。

3)被害
 在日米国基地――安保文書では「施設および区域」と称されるフェンスで囲まれた地域――は、完全な治外法権の場所です。基地周辺に住む人たちは、沖縄の人たちがいちばん痛切に感じているように、地域社会との断絶、違和感、差別と不平等の感情を日常抱いているわけですが、神奈川県の場合も、沖縄ほどあからさまでないにしても、基本的にと同じように地域社会との矛盾が、一番大きな問題としてあるだろうと思います。
 基地は、地域社会にとっての「異物」ですから、さまざまな圧力、加害、矛盾を日々発散しており、また、軍隊活動が引き起こす、事故や犯罪、風紀上の問題も避けられません。航空機の墜落事故にしても、横浜の緑区に、F4ファントムが落ちて、幼い子どもを含む4人が死亡したという痛ましい事故がありました。さらに、厚木における騒音問題、横須賀での異常放射能事件といったように、日常生活のなかにおける被害、基地あるがゆえに受け入れざるを得ない状況が、この60年ずっと絶えることがありませんでした。
 さらに、基地の目的、そこで行なわれる活動は、基本的に戦争、つまり人を殺す、物を破壊するということを準備し奨励するものです。そういう生き方の場所と、周辺の地域社会が、違和感なく一致できることはなく、フェンスにとって遮断された基地は、当然ながら、さまざまなかたちで地域社会との間に摩擦を生み起こさずにいられません。心ある人なら、フェンスの内側の米兵に対して、与謝野晶子と同じように「人を殺して死ねよとて、二十四までを育てしや」という思いをもつでしょう。それが地域市民社会の常識です。外国の、外国のための戦争の場所であれば、なおさらです。

U いま、何が起こっているか?


 いま、基地をめぐる情勢が大きく動いています。私は、現在の政治状況を表す言葉として「改憲と再編の同時進行」、が適切だと思います。憲法改正の動きと、在日米軍基地の改変が同時進行しているのです。両者は「コインの裏表」の関係にあります。つまり、米軍再編は憲法改正を前提としており、一方、改憲が実現しないと再編の目的――基地の使用制限を取り払い自衛隊と一体化する(集団的自衛権の行使)――は達成できません。だから同時進行しているのです。
 昨年の10月の奇しくも27、28、29の3日間に、まるで連続パンチのように、日米安保条約に大きな変更をもたらし、また憲法改正へ向けた新たな政策提示が行なわれました。これを私は「憲法虐殺の3日間」と呼びたい。
 10月27日は、2008年度以降、原子力空母が横須賀を母港として配備されると発表された日です。こんな重要な決定が、日米両政府の合意として発表される形式さえ踏まず、東京の米大使館の新聞発表とアメリカ国務省の声明というかたちで通告されました。安保条約は、米軍基地における「装備・配置の変更」など重要事項に関しては「事前に協議する」と約束されています(事前協議制度)。アメリカ政府が日本政府に事前協議を申し入れ、日本政府が安保条約条文の範囲内で「承知しました」といって、それが日米両政府から説明され発表されたのであれば、「事前協議の手続きを踏んだ」ということにはなるでしょう。私は安保条約に反対ですが、条約がある以上、少なくとも安保条約の条文と手続きをきちんと守ることを要求する権利があると思います。しかし、どちらもなされませんでした。安保条約は実質的に改訂され、事前協議制度は無視されました。安保条約を承認する人でも、このやり方には承服できないはずです。
 加えて「米軍再編」がもたらす影響はもっと深刻です。ジョージ・ワシントン級の原子力空母は、原子炉を二つ積んでいます。出力100万キロワット、中規模原子力発電所の原子炉と同じ出力を持ちます。そのような軍艦の「母港」になるということは、原子力発電所が東京湾、横須賀港に常設される、少なくとも年の半分は居すわることを意味します。「浮かぶ原子力発電所」の出現です。
 国内どこかに原発を建設するときには、綿密な環境調査、地質調査が行なわれ、審議会が開かれ、安全審査がなされ、そのうえで許可がおろされ、稼働した後の定期検査、抜き打ち検査、あるいは安全審査が行なわれます。それでも、ときどき事故が起こる。しかし、横須賀の来るべき原子力空母に対しては、日本政府はいっさい権限も持ちません。軍艦は治外法権の存在なのです。
 これまでに1200回ぐらい、横須賀、佐世保、沖縄の港に原子力潜水艦が入ってきていますが、それは寄港です。母港ではありません。長くても4日、1週間以上というのはありません。それでも各地で「異常放射能事件」が起こっている。母港になると、そこに居を定めるわけだから、事故の危険ははるかに大きく、また、原子炉の大きさから考えると、破滅的です。それに対して日本政府は何の手を打つこともなく、容認してしまった。
 このように10月27日に起こった原子力空母の配備通告は、日米安保条約の運用原則を踏みにじっており、さらに、日本政府の政策である非核三原則も踏みにじってしまいました。東京湾に浮かぶ安全審査抜きの原発。それはBSEの危険どころではありません。
翌28日には、自民党の「憲法改正草案」がでました。これに関しては、すでにさまざまに論じられていますので、説明は省くことにします。このなかでは、自衛隊が「自衛軍」になるということとともに、その自衛軍が「国際的に協調して行なわれる行動」、つまり外国で戦争をするというような事態に任務として参加するという位置づけがなされています。当然、日米安保の新たな展開と米軍再編の延長線上にとらえられるべきでしょう。
 翌29日に、ワシントンで日米4閣僚の合意が行われました。「米軍再編の中間報告」といわれますが、正式名称は「日米同盟:未来のための変革・再編」というタイトルです。つまり日米同盟の変革、安保条約の変革が目的なのです。
 中間報告のなかに、東京の横田を含めた首都圏における日米両軍の共同司令機能の新設計画がもりこまれています。ひとつは、座間基地にアメリカ本土から「第1軍団司令部」がやってくる。もうひとつは、横田基地でアメリカの第5空軍と航空自衛隊の航空総隊が一体化し、「共同統合運用調整所」という共同司令部をつくるということです。横須賀には、すでに自衛艦隊司令部という海上自衛隊すべての戦闘艦艇を指揮する司令部があり、第7艦隊司令部も横須賀にあり、両司令部は同じ敷地のなかにあります。
 ということは、米軍再編計画とは、日米の陸・海・空戦力を、事実上一つのものにするもので、神奈川と東京に、その司令部が設置されることを意味します(座間基地には陸上自衛隊の「中央即応集団司令部」が新設されます)。朝日新聞は米軍と自衛隊の「融合」という見出しで、その事態を表現しました。日米両軍の融合、すなわち一体化です。だれが指揮するか? いわずもがなです。
 横須賀、座間、焦点の2つは神奈川にあります。神奈川県において起こりつつある、海の横須賀、陸の座間において起こりつつある日米軍事協力の根源的な変化をどのように把握するかが、「米軍再編」についての本質的な見方を決めることになると思います。その意味で、神奈川県から発信されるメッセージはたいへん大きなものです。
 ともすれば私たちは、再編問題を個別基地の問題にしがちですが、そしてそれは地域社会の問題として重要であることはいうまでもありませんが、首都圏で日米の3つの陸、海、空の司令部が合同し、一体化するという視点も見落としてはなりません。そのような枠組のもとで、厚木基地の空母艦載機を岩国にもっていく、沖縄に海兵隊航空基地を新設する、米軍の訓練基地を北海道から鹿児島まで、自衛隊基地に分散させるという玉突き的な基地拡大が計画されているのです。したがって、本質的なことと、それによって生じる個別的なこと、両方を把握しながら米軍再編に対して態度を決めることが必要だろうと思います。

V 「改憲と再編の同時進行」に対抗するため、なにが求められているのか?


 私は、当面取り組むべきこととして、具体的にあがっている全国各地におよぶ基地再編計画を、個別に、その場その場で反対するだけでなしに、ネットワーク、連合のようなかたちで組み立てて、問題の共有と発信することが必要なのではないかと思います。
 中間合意で提起されている基地の再編の該当自治体だけでも、北海道、青森、茨城、神奈川、東京、石川、岡山、山口、福岡、長崎、鹿児島、宮崎、沖縄の13の都道県です。市町村にまで含めますと、200いくつになりそうです。バラバラに対応するなら、「地域振興」などというアメをつきつけられ各個撃破を受けて負けると思います。全国的な受け止めが必要です。ネットワークを提起できるとすれば、それは神奈川と沖縄が両輪だろうと思います。発信地になるべきだと考えます。そのような動きをつくり、問題を提起していくことが、いま大変大事になってきていると思います。
 もうひとつは、憲法に関して、この9条のもとでこれからも生きていこうと思うのであれば、9条のもとでの安全保障政策を打ち出していく努力、知的な作業、政策提起能力が問われています。憲法全体では、変えた方がいいというほうが増えていますが、9条に関しては、まだ変えないほうがいいという層が多数派です。「憲法9条維持のもとで、いかなる安全保障政策が可能か」に対する答、このようにして安心と安全を保障できるのだという政策をつくるのが、私たちに課せられた大きな課題だと思います。
 その意味で、神奈川と基地、安全保障政策と神奈川は、さかのぼれば日本近代とともにあり、いわば歴史的な宿題としてみなさんに与えられているという受け止めかたをして、ぜひ力強い発信、刺激的な提案をしていただきたいと思います。
(文責・編集部)


前田哲男(まえだ てつお)教授のプロフィール
東京国際大学国際関係学部教授
専攻は軍事・安全保障論

1938年生まれ。
著書「自衛隊をどうするか」(ちくま学芸文庫)他