全国的な議席の変化は、ご承知のとおり、自民党の圧勝で、与党の勢力が327という3分の2を超える強さでした。その特徴としては、小選挙区での勝利が圧倒的であって、 300議席のうち219を自民党が取るという、これだけで3分の2を取ってしまったわけです。そのマジックを生み出したのは、いわゆる小選挙区制がもっている特性によります。
比例区でも、いままでは民主党のほうが全国データでいうと、いつも上回っていましたけれど、今回は自民党が民主党を凌駕しています。
民主党の小選挙区は53議席で、比例区も11議席減らすということになっておりまして、獲得した113議席という数字は、2000年の第2回目の小選挙区の選挙の127よりも、さらに14議席減らしているということであります。2000年のときは、小沢自由党が別になっていましたから、それを勘案すると、さらにもっと減っているという状態で、民主党としてはたいへんな敗北になります。
今回の減り方は、非常に特徴的で、首都圏では、東京、神奈川、埼玉、千葉、それに中部圏の愛知、近畿圏では大阪府、兵庫、北九州の福岡といったところが大きく議席を減らしました。大都市圏を抱えたこれらの地域は、いままでは民主党が圧勝していた地域です。
小選挙区の投票率が全国で7.6%増加をしたということで、有権者の有効投票がこれまでの5950万人が6800万人ですから、一気に850万票増えた。そのうち、自民党が640万で、3分の2強が自民党に入れたということであります。
比例区では、民主党が総数を減らしたのに対して自民党は520万票増加しており、比例区では、あきらかに得票数の上でも逆転現象が起きています。ただ、比例区の議席の総数が180ですから、全体に与える影響はそれほど大きくないということであります。
県内の選挙結果の特徴ということになりますと、18ある小選挙区のなかで自民党が16の議席を獲得する。いままでは、11ぐらいを獲得したのが自民党では最高であったわけですが、前回に比べて一気に5議席以上増やしたということであります。公明党も6区で議席を守った。唯一例外的なのが、8区で無所属の江田憲司氏が議席を獲得した。
それにひきかえ民主党は全敗したわけですが、そのことによって民主党の県連の運営が危機的状態になっているといわれています。神奈川の場合は投票率が9.29%前回より上回った。小選挙区の有効投票が全体で73万票増えたうちの、71万票を自民党がとり、この結果、自民党の圧勝になったわけです。
比例区では有効投票が同じく70万票以上増えたうち66万票は自民党が獲得したのに対して、民主党は、比例区では票を逆に減らすことになった。関東ブロックでも議席を減らしたが、そのうち神奈川で23万票も得票を減らした影響が大きかった。小選挙区で落選した
場合に、比例区で救われるのは当選者との惜敗率でみるのですが、県内で70%を超えた候補者が5人しかいなかった。ひどい人は23パーセントという結果になっています。
特に、ベテラン議員の落選が目に付きます。私は、県内の民主党の候補者の平均年齢が自民党議員より3歳上だったということが、決定的なマイナス要因であったと思います。
分析を少し進めて、出口調査の結果を見てみたいと思います。今回ほど出口調査の結果と投票結果がピッタリ一致したことはなかったと言えます。ちなみに、選挙当日の午後5時現在でまとめた数字でみる限り、民主党は全敗するということがわかっておりました。数
字の差は多少ありますが、各社みんな同じ結果です。
これをみるときに、私は二つの要因が出てきたと言っています。
投票行動のタテ移動とヨコ移動が同時に起きた。タテ移動というのは、これまでの選挙の経験から、自民党の支持者の層は厚いのですが、その支持者が投票に行かないで無党派層が投票に行くと、上下の移動が起き、野党が勝つという構図でした。ヨコ移動というのは、投票する人が、いままで投票した政党と違う政党に投票すること。特に、支持政党なしといわれている人たちが何党に投票したかが、選挙の結果を見極めるポイントになると言われてきました。
今回、投票率が上がった分は、自民党の支持層が多く投票に行った。それから、政党支持がないと答えた人の割合は増えなかったが、その人たちが、民主党よりも、自民党に多く投票したというのが、今回、タテ移動とヨコ移動が同時に起きたという現象になります。
具体的に、支持している政党を聞いた質問では、03年の選挙のときは、自民党を支持している人は約4割です。今回、自民党を支持している人は43%で、支持者で投票に行った数が増え、割合も増えています。民主党の支持者層の割合はほとんど変わりません。支持政党なしといわれている人の割合は1.8%減という結果でした。
それぞれ、どこに投票したのかというと、出口調査では県全体で見ると自民党に投票した人が03年では42.5%であったのが、今回は54.2%投票したと答え、10%以上増えています。それに対して民主党は、出口調査で前回は41%が民主党に投票したと答えたけれど、今回は約10%減らして36.9%になっているという結果となっています。
また、政党の歩留まり、政党支持者の内部をどう固めたかを見ると、自民党支持者で、自民党に投票したと答えた人は、前回は7割だったが、今回は8割で、明らかに10%増えている。それから、前回は民主党に2割が流れていたが、今回は民主党に流れたのは1割ち
ょっとということで、自民党は自民党内部を固めることに成功した。
一方、民主党は、民主党支持者が民主党に投票したのは、前回8割を超えていましたが、今回は7割ちょっとで、これも10%減っている。その分が自民党に流れ、前回の9.5%が今回19.6%に上り、明らかに党の内部を固め切れなかった。自民党が自民党内部の票を固
めたのに対して、支持層が少ない民主党が、少ない支持者の人数の中から一部を自民党にもっていかれたというダブルパンチを受けて敗北したという結果になります。
面白いのは、政党支持なし層も同じようなことでありまして、前回は自民党に入れたのが3割程度であったのが、今回は4割を越えるというように、無党派層も自民党に流れた。
このように、自民党支持者が投票所に行き、無党派層が自民党を支持したという二つの結果で、タテ移動とヨコ移動が同時に起きたことによって、結果的に民主党が敗北したという、生々しい事実を申し上げました。
では、それがなぜ起きたのかということが問題になるわけです。私なりに考えたことを申し上げてみたいと思います。
自民党が勝利して民主党が惨敗した背景は何かというと、有権者の中に権力に対する「過剰同調」が表れたということです。特定の権力や特定の理念にドッと意識が流れていくということです。英語でコンフォームという言葉があるそうですが、コンフォームというのは、「同調する」とか「賛同する」という言葉です。その同調が激しくなるものを、政治学用語でコンフォーミズムというように言うそうですが、そのことが起きたのだということです。
内閣府のホームページを開いて、郵政法案の内容をみると、そこに小泉総理が挨拶文を載せています。郵政民営化は改革の本丸であるということと、公務員を減らすことが、小さな政府に結びつくのだということが書いてあります。それは去年の10月にホームページに載っています。それと同じことを最後まで言い続けていたわけです。
その流れは、民営化することが正しいのだ、公的機関にマネジメントの観念を植え付けるという意味でも、民営化が善であるというようなことを吹聴する路線とぴったり一致しています。
長引く不況に基づく「時代の閉塞感」という言葉で言っておりますが、現在の社会は不平等であり、一方で国や政府に依存しすぎており、個人ががんばりに応じ、フェアに扱われているかということに対する漠然たる不安や不満があります。都市と地方の人々の間での不平等や、政財官の癒着構造による自分たちの利権を確保しようとする権力を持った側における不平等によって、不安が現に表面化しています。
こういうことは、正当な競争社会になっていないからいけないのであって、民間でできることは民間にという、「市場の原理」のみがすべての問題を解決できるのだと、こういう競争社会への仕組みこそが改革の骨組みなんだという発想と、それに同調する人がドッと増えてきた。郵政民営化は正しいことなのだと「過剰同調の現象」が表れた。
そういうことが背景にあって、シングルイシューでわかりやすい行動をとる小泉政権は面白い、公務員にも競争させるぞというかたちで同調する。そのことが、自民党支持者ばかりでなく、無党派層も自民党に投票するという現象になって、都市部を中心に現れてきた
と私はみています。
今回の選挙の結果が、05年体制として定着するのかどうか、今後の分かれ目になるところだろうと思います。「また揺り戻しもある。」という話もありますが、市場原理主義の裏側にくっついているのは新国家主義といわれているナショナリズム、そのナショナリズムがポピュリズムと一緒になって、全体保守化の流れをより加速しているという状況です。そして、自民党の権力を総裁に集中させる。そのようなかたちになって表れてきた。このことが、来年の秋といわれています小泉政権の終末を契機に、どういうふうに展開していくのかということが、今後大きな焦点になっていくと思います。
民主党にも、市場原理主義に過剰同調する人がたくさんおり、そのことが郵政民営化に対して、適切な反論ができなかったことになっていると思います。党内の意思統一が決定的に不足していますし、守りに立つと弱い性格が表れました。民主党の組織は中央本部と国会議員が基礎組織で、このことからみても、日常的な活動は非常に弱い。日常活動をほとんどされていないという批判を、身内から受けていたくらいで、出遅れが目立ちました。
今後国民の右傾化はさらに進むのか。憲法改正の問題が進んでいくのではないか。また、年金の問題、医療保険の問題、それから少子化対策、国と地方を通じる財政危機、財政破綻の問題、増税、地方分権の課題など、非常に大きな国民的な課題が残されたままというのが現状です。
これに対して、市民から対抗軸を出して、社会的共通資本の充実、政府と市民との協働による政治といったようなものを目指せるのか、それともナショナリズムを中心とした新国家主義を目指すのかという選択肢があるのではないかと思います。
それはまた、市民自治によるセイフティネットのある福祉社会をつくっていけるのか、二極分化にしていく所得階層の中で、結果的には所得のない人が社会的に排除されるという現状を容認しつつ、政財官の癒着をそのまま続けて、個別利益を追求することにまい進していくのかという選択肢の問題でもあります。このことについて、野党側、民主党が、どれだけ有効な手立てを出せるのかが、今後の帰趨を決めることになるだろうと思います。
究極には、「市民の政府」に向けた地域活動の必要性や、市民の政府づくりをどう進めるのかという課題が追求される必要があると思いますが、この方向と、いままでお話してきた現実の話との間のギャップがいかにも大きいというのが、私の実感であります。
(文責・編集部)
上林得郎(かみばやし とくろう)氏のプロフィール
神奈川県地方自治研究センター主任研究員
1939年生まれ。
1977年神奈川県地方自治研究センター設立に伴い、
横浜市役所を退職。同センター専従・事務局次長に就任。
1985年社団法人の許可を得て法人化。
同年事務局長となり、常務理事を経て現在、理事・主任研究員。
著書に「地方分権国際比較」、「諸外国における大都市制度の比較調査」、
「入門・地方財政危機と財政分権」など(いずれも共著)