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第14回月例研究会
フランスにおける最近の社会連帯経済促進政策


問題提起者:真下俊樹(緑の政策研究家)

2002.7.6  17:00〜19:00
神奈川ネットワーク運動3階大会議室

 ヨーロッパでは、ここ1年ぐらい極右勢力の台頭と共に右傾化してきまして、フランスでもこの間、政権が保守に変わりました。今日お話する内容ももうあと一歩で法制化というところまでいっていましたが、法制化には至らないまま政権が交代してしまい、今の保守が引き継いで同じ路線を続けていくとは考えられないわけで、しばらくは、棚上げになる可能性が非常に強いです。

I. これまでの社会連帯経済支援策

A. 1901年法

 フランスでは1997年以降、赤と緑の政権で、大統領は保守でしたが、国内政治でさまざまな変革が実行されてきました。その中の一つが「社会連帯経済の促進」で、その根拠となったのが協同組合法や共済組合法ですが、もっと古いもので「1901年法」という、結社の自由をフランスで初めて認めた法律もあります。

B. 1981年の1901年法改正

 この改正は1981年5月にミッテラン政権が誕生したすぐ後、81年の末に施行され、「市民団体の社会的有用性(utilit sociale)」を公に認定する項目が入りました。社会的有用性の認証を5年間の期限を区切って政府が行なうものです。
 認定を受けると、法人や個人からの寄付金が受けやすくなるという利点があります。法人の場合、社会的有用性の認定を受けた市民団体(association)に寄付を行なった場合には、法人の利潤額から売上の3%を限度として控除することができる。個人からの寄付の場合も、課税所得の2%を限度として控除できるという内容です。

C. 1981年12月:省間社会改革社会的経済委員会(DIES)設置

 この法改正の施行と同時に、社会経済を専門に担当する、特定の省に管轄されない機関としてDIESが新設されました。これをやったのは、ミッテラン政権です。市民団体、共同組合、共済組合をひっくるめて社会的経済 (economie sociale)というカテゴリーにまとめ、それを専門に担当する機関をつくったわけです。
 DIESの目的は、社会的経済の法的な枠組み、財政や税制、市民団体に有利なシステムをできるだけつくることです。新しい時代を切り拓いていく変革の主体として社会経済を捉えて、こういう活動をしている市民団体を特別に支援していく。これは、先ほどの社会的有用性の認定制度に基づいています。それから、社会的経済はマージナルな存在としか見られないことが多いんですが、それを変えていこうという目的ももっています。
 DIESの活動内容は、行政の側からの支援プログラムをつくったり、実行すること。それから、社会連帯経済をネットワーク化するということもあります。また、地域圏、県に担当者を置いて、社会連帯経済の担い手たちの技能研修(担い手の育成)をやっています。
 補足ですが、「地域圏(region)」というのはフランスの行政単位です。1970年代以降の地方分権化の課程で、どんどん権限が強化されてきました。面積的には、日本の地方くらいですが、人口はだいたい日本の県ぐらいです。ここに地域圏会議があり、議会であると同時に行政の責任も負っているという変則的なかたちです。だけど、近年どんどん権限が強められてきて、例えば課税権とか、これまで国がやっていたような業務も地域圏でやる。逆に、地域圏の下に県(departement)という小さな単位がありますが、そこからの業務も移行する。上と下から権限を移行してきて、非常に重要な地方自治体になっています。
 このあと行なわれた大きな改革が、今回のジョスパン政権の改革です。ジョスパン政権の政策はほとんど緑の党と社会党との政策協定に基づいています。左翼連合は、ミッテラン政権の時代に独自の政策はほとんど出し尽くしていましたが、一定の得票率はあるから議員は出せる。一方、緑の党は斬新で非常に有効な政策はたくさん持っていますが、得票率はだいたい5%前後です。5%を超えない限り議員は出せない。出すとすれば必ず左翼との選挙協力が必要になるという状況です。ですから、お互いにお互いを必要とする。そこで、協定が行なわれるわけです。

D. 1997年1月:「緑の党−社会党共同文書」

 ジョスパン政権の政策の90%ぐらいが、この共同文書に基づいているといわれています。
 原発のモラトリアム、高速増殖炉の閉鎖、高速道路建設中止など、いろいろなものが入っている中の目玉の一つとして市民セクターの拡大があります。フランスでは“第三セクター”(tiers secteur)といいますが、ここでは市民セクターと呼びます。資料にあるように「商品部門と公共部門の外で、社会的・エコロジー的目的をもって行われ、市民セクターの発展に寄与する様々な自発的活動を支援する。基本法を制定し、こうした市民セクター設立の支援、それへの助成を行う」と書かれています。とくに市民セクターの事業を始める人たちへの支援です。「その境界の画定」とあるのは、従来の社会的経済という枠組みが、必ずしも実状に合っていないという認識があります。例えば企業が脱税のために隠れ蓑にしているような市民団体もありますし、狩猟家の市民団体は極右です。こういうようなものと、十把一からげにされてはたまらないというので、もっと違う区切り方をしてほしいという要求が非常に強かったんです。
 「入札政策の促進」とあるのは、特に地方自治体が何か事業を行う場合に市民セクターへの入札がしやすいような形にすること。「透明性規則の確立(会計監査、地域圏会計院)」は、市民セクター行政の中心を地域圏に置こうということです。「ボランティアの身分規定」とは、これまで何もなかったボランティアの身分保障をできるようにすること。「商工業雇用協会等との協定締結を行う」は、雇用対策の事業等は市民セクターでやった方が率よくできるということで、国とか自治体の雇用対策事業と市民セクターとリンクさせようという考え方です。

E. 1999年2月:首相の主催で「市民活動全国大会」

 これは公権力と市民団体とのパートナーシップを承認する大きなイベントでした。これまで市民セクターはマージナルなものという印象が非常に強かったんですが、国と市民セクターが対等なパートナーシップを結ぶということをを公の場で大々的に印象づけ、認知するセレモニー的な意味の強いものでした。

F. 社会連帯経済地域圏円卓会議

 そのあと、実質的な作業としてこれが行われました。雇用・連帯省、国土整備・環境省、都市省の3大臣が合同で委託して、連帯経済拡大に何が必要かを知ろうというものでした。責任者になったのが緑の党の経済政策を担当しているアラン・リピエッツです。この人は、レギュラシオン学派の経済学者としても有名ですが、いま欧州議会の議員をやっています。
 2000年の2月〜4月に、22の地域圏で円卓会議をやりました。社会連帯経済の活動をしている人たちが、直面している問題を出し合い、どうやったらもっとやりやすくなるのかを提案してもらう、そういう会議です。のべ4000人ぐらいが参加しました。6月にパリで全国大会をやり、総括する最終報告が出ました。これにもとづいて促進政策が立案されました。

II. 政 策

A. 2000年4月:社会連帯経済庁(雇用連帯省)強化

 社会連帯経済庁という専門の部局は、ミッテラン政権が1992年に置いたものです。ただ、予算は微々たるもので、票集めのためにつくったようなものです。そのあと保守政権になって、ほったらかしになっていました。2000年になってやっと予算をつけ、人員も配置した。長官には、緑の党からアスコエが就任しました。ここが中心になって、以後の政策がとられました。
 それから、地域圏単位に社会連帯経済の振興を目的とした会議所を新設しようということで、社会連帯経済会議所が置かれました。DIESの機能を地域圏レベルで担当する事業者の団体です。

B. 統計の整備

 社会的経済は市場経済とまったく違ったロジックで動いていますから、市場経済を前提とした統計のシステムでは十分評価できない。ですから満足な統計はなかったのですが、国立統計経済研究所(INSEE)に研究部局を設け、全国のデータベースをつくり、統計を出すことが始まっています。2001年の統計によると、だいたいフランスのGDPの10%ぐらいが社会的経済によるものだったということがわかっています。
 その他、市民団体(association)で有給で働いている人が130万人。ボランティアで働いている人は700万人、ボランティアの70%が女性です。いかに規模が大きいかを再認識させる数字でした。

C. 2001年6月:「集団利益共同組合会社(SCIC)に関する法律」制定

 これは、社会的な有用性を目的としている団体を認定して、優遇するためにほかの事業体と区別していこうという法律です。また、市民団体が、更に活動を広めるために小規模の協同組合に発展することもあります。これまでは切替の行政手続きが非常に煩雑でしたが、スムーズに市民団体から協同組合や共済組合、あるいは市民団体から企業にといった事業体への移行を、新たな申請なくできるようにした法律です。
 この法律は、従来のように「社会的経済」という形態によってではなく、社会全体の利益という目的で他の事業体から区別しました。特に市民団体(association)の地位を認知したことも画期的でした。
 これは「若者雇用新サービス法」ともリンクしています。フランスでは、首切りが非常に難しいため、失業者の中で若者の占める比率は非常に大きく、文系大卒の50%ぐらい、理系でも25%ぐらいが失業です。そこで、最初の雇用の取っ掛かりを与えようという法律です。長期の失業者が対象の「社会的排除対策法」もあり、ホームレスの人たちの対策も事業化していくことが可能になります。これらの法律全体で、社会的目的をもつ企業の設立を有機的に支援します。イタリアや北欧などで、ここ10〜15年ぐらい「社会的協同組合」が増えていますが、こうした新しいタイプの事業を促進して雇用対策をするわけです。
 具体的な措置は補助金ですが、自治体の資本参加(20%以下)もあります。

D. 2001年7月1日:「国家市民団体間相互契約憲章」

 これは「1901年法」からちょうど100年目にあたるということで、記念事業として、国と市民団体の役割と権利を体系的な文書にして規定しています。

E. 2001年12月:連帯経済庁長官が「社会連帯経済に関する枠組み法」趣旨説明書を閣議提出

 一番重要なのが、この法律案です。これは、連帯経済庁がつくった基本法といえるものですが、まだ法律の条文までにはなっていません。趣旨説明書として閣議に提出されて議論されたという段階です。それ以降、大統領選や総選挙に入ってしまったものですから、そのままになっています。そして今回、保守に交代しましたから、ここ止まりで、次回政権交代があったら、具体的な法律になると思います。その内容を見ておきましょう。

1. 定義と適用範囲  「社会連帯経済固有の活動の場、すなわち、人間とその環境を尊重しつつ経済活動を行い、富を交換・創造するもうひとつの方法を定義する」とあります。1,2,3条は、社会的有用性を目的とした活動の認証制度をつくり、ラベルを取得した事業体に対して優遇措置をとるということです。

2. 国および地域圏における代表  フランスでは社会的パートナーという考え方があって、従来は労働組合、最近になって消費者団体、さらにNGOが意思決定の場に呼ばれるようになってきました。けれども、社会連帯経済からの代表というのは、まだ入っていないんです。そこで、公の意思決定の場に代表を必ず入れるようにしようということです。
 それから、現行の社会連帯経済の諮問委員会は廃止し、代わりに社会連帯経済の事業者代表で構成する評議会をつくり、ここで認証のための基準をつくっていく。この評議会の地域圏版が実質的に認証を与えることになっています。

3. ラベル  「社会連帯経済の社会的に有用な公共利益活動の固有性を認証し、財・サービスの消費者がこうした活動を見分け、商品経済の財・サービスと区別できるようにするとともに、税制上の優遇措置の受益を可能にする」というものです。ラベルの発行主体は連帯経済庁あるいはDIESで、ラベルの付与期間は5年を限度とし、5年経ったら再審査をする。義務に反していた場合は即座に取り消しです。

4. 財 政  もう一つ重要なのは、財政的な裏付けです。「連帯貯蓄」を国が認可し、他の貯蓄製品から区別して市民が見てすぐわかるようにする。
 また、資産の最低8%を社会連帯経済に融資している金融機関に対して、社会貯蓄および連帯貯蓄が資産に占める割合に応じて優遇税制を行います。なかでも、取り引きの50%以上が社会連帯経済を対象としている企業を「連帯金融企業」と認定します。

5. 近隣サービスの発展  フランスの場合、介護活動などをやっている市民団体に行政が助成しますが、現状では在宅サービスに限られています。それを在宅以外のさまざまな活動まで範囲を拡大するための条項です。

6. 経済活動への脱皮  長期の失業者のなかに、連帯経済の事業を始めたいが、お金がなく、誰もお金を貸してくれないという場合に、代わって信用を補助します。それから、ホームレスなどの場合には住所が必要ですから、住所を提供し、計画が本当にうまくいくかをコンサルタントがチェック、するというものです。

7. フェアトレードに対するラベル  消費者が倫理的、エコロジー的、市民的選択を行なうための明快な情報を与え、「社会連帯経済」が要求する質を尊重し、持続的発展の基準を満たす国際取引活動が、売り上げの80%以上を占める企業に対して「フェアトレード」のラベルを与えるものです。

8. 研究活動  社会連帯経済の研究があまりいないので、既存の研究機関のネットワークを作って奨励し、統計や理論を開拓していこうというものです。

 以上が、ジョスパン政権がこれまでやろうとしてきた社会連帯経済の促進政策です。何年か先かもしれませんが、ぜひ日本でもこういうことが起きるといいなと思っています。それを目標に頑張りたいと思います。(拍手)

(ましもとしき)