2002.6.1 17:00〜19:00
神奈川ネットワーク運動3階大会議室
そもそもこの調査はどういうかたちで始まって、どんなことをしているかということをお話したいと思います。CEP(Council on Economic Priorities:経済優先順位研究所)を起こしたアリス・テッパー・マーリンという女性が“Shopping for a Better World”というショッピング・ガイドブックを1991年に出しました。このガイドブックはスーパーマーケットに並んでいる商品のメーカーを環境保護、女性やマイノリティーの社内での昇格、社会的な寄付、情報開示などでランク付けしたものです。彼女の主張は、「人々が物を買うという行為は企業に対して一票を投ずるのと同じことだ。消費を通じてより良い社会を作ろう」という考え方です。普通の買い物をするときにも、自分の価値観と合致する企業理念を持ち、社会的な活動を進めている会社の製品を買いましょう、同等のものが複数、市場に提供されているのなら、多少高くつく買い物でも、自分が好ましいと判断する会社の製品を選びましょうという考え方です。こうした考え方を何とか日本に根付かせることができないだろうかと考えていた下村満子さんが、『朝日ジャーナル』の編集長になった1989年に、この調査を開始しました。
『朝日ジャーナル』編集部と学者グループが共同で1989、90年度、2回の調査を行ないました。当時はとてもマイナーな学問領域だったものですから、学者の方でも専門になさっている方は少なかった。その中で、名東孝二先生が長くご専門で研究なさっていらしたので、名東教授のグループに協力をお願いしました。ところが、調査データを利用した論文が『日経ビジネス』に発表されました。その中でランキングの1位となったのが松下電器産業でしたが、寄付金額ですとか、社内教育にどれぐらいの金額を充てているかといった数字を生で出してしまい、企業からの抗議が寄せられる事態になり、このまま続けるわけにはいかないということになりました。そこで、第三回調査からは、調査主体を朝日新聞文化財団内に設けられた企業の社会貢献度調査委員会に移し、陣容を一新し、現在に至っています。
最初の調査は100社に依頼し、70社から回答をいただきました。その70社は、ほぼ毎回回答いただいています。調査依頼企業数は現在では400社まで増やしています。消費者に身近な業種を中心に売上高の大きな企業を選んでいます。調査を依頼した企業の中にも倒産する企業があったり、合併・統合などがあったりで、異同がありました。本来は少なくとも東証上場企業全社ぐらいは対象にしたいのですが、ここ数年、400社程度にしか送っていません。調査内容が人事、環境から社会支援にまで及ぶので、各部署に個別に問い合わせをしなければならないものですから、調査自体がとても手間のかかる嫌がられるものになっています。広報あてに調査票を送っていますが、広報だけでは答えられないために、回答できる体力のある企業の数が限定されるというのが400社に留まっている大きな理由です。
まず、われわれは調査と言っていますが、社会学などで言う学問的な意味での調査とは異なります。ある種の価値観に沿った質問をしていますので、実際に社会調査などで行なうような無差別の抽出はしていませんし、答えてくれる人は答えてくださいというものです。調査というよりは、ある種の運動だと捉えたほうがあたっているかも知れません。そう考えているのなら、もっと社会的にフリクションを起こさなければ運動にならないだろうという意見もありました。しかし当方としては粘り強く、我々と企業側がとにかく納得づくで一つの方向を目指して、協力できるところは両方でしましょうということを考えています。したがってアンケートを送付し、その回答に基づいて評価し、発表しており、独自の跡づけ調査などは行なっていません。
12回の間に、ずいぶん変えました。例えば、第11回調査までは「女性が働きやすい」と「ファミリー重視」と「社員にやさしい」という、非常に軟弱な指標名にしていました。しかし、リストラをどんどん企業がやるようになり、どうも「社員にやさしい」などと言っている状況ではないだろうということもあり、昨年は指標、設問を大きく変えました。
最初に申し上げたとおり、第1回、第2回調査の結果は朝日ジャーナルの臨時増刊で発表しました。第1回は12,000部刷って、翌年15,000部に上げています。その後3回は朝日新聞社で出しまして、6,000部、5,000部、さらに3,000部と、販売が落ち込んでいます。その後、発行をPHP研究所にお願いしたのですが、PHP研究所もやる価値があるということで、当初は5,000部でした。それが4,000部になり、3,000部になりで、ここのところ3,000部でずっと落ち着いている状況です。
CEPは相対的な評価で、20%刻みに5段階に分けていますが、われわれは絶対評価をしています。実は、この方式は朝日新聞文化財団で行うようになって3回目の第5回調査からです。朝日ジャーナルから朝日新聞文化財団への移行当初の2年間は相対評価でした。この2回の調査で、日本企業の大体の相場をつかんで、相場とされる部分が真ん中にくるようにして、「飛ぶ鳥」から「ネストにある卵」までの5段階に分けています。
また、5回目から賞を出しています。企業は大変に喜んでくれています。最初は賞状1枚でしたが、今は盾も出しています。朝日新聞社の社長が財団の理事長を兼ねていますので社長が渡しています。受賞者側は該当企業の社長、会長、あるいは担当の常務などが多いのですが、「朝日新聞社から誉められるとは思わなかった」というのが、多くの感想です。担当の部署の人たちが賞状を受ける社長以上に喜んでいます。表彰式がいろいろな部門でさまざまな工夫をしている企業の方たちの話を聞く機会になっているのが、とても大事なことだろうと私は思っています。企業の担当者も、自分たちの活動に自信と勢いがつくと喜んでくれています。
先ほど申し上げた対象企業数が伸びないのは問題ではあろうと思います。というのは、現在の調査対象企業は一流企業ばかりなものですから、日本の企業全体の底上げに結びつかないではないかという批判があります。
それと、私が思っているのは、実は我々自身が本当に調べて、この企業はこういうことをやっているということを明らかにして、その企業を応援するなり非難するというのがあるべき調査の姿だということです。特に応援については、ベンチャー企業を含め、中小企業について、これからやらなければいけないことだろうと思いますが、そうすると、それに該当するような設問がわれわれに作れるだろうかということと、ベンチャー企業や中小企業自身が設問に答えている余裕はないだろうというところに調査の限界を感じています。ただし、産業の興隆・衰退というのは明らかにありますから、今たとえば学生さんが20代でいいなと思って入った会社が、定年退職のときに同じような地位を産業界で占めているかどうかというのは疑問なわけです。ですから、これから伸びる企業についての社会貢献情報を提供し、就職の際に参考にしてもらうことが重要となるのですが。
また、もう一つの課題として、企業が答えているのをそのまま発表しているわけですから、独自の検証ができずにいます。調査の信頼性を高める努力が必要ですが、情報開示がより一層進むことを期待せざるを得ない残念な状況です。アメリカではチクリのネットワークもあるということですが、これは今でも難しいと思っています。
調査に対する見方は、当初の「企業を評価するというが、何様のつもりかね」という態度とは風向きが変わってきたなという感じがあります。いろいろな方がこの調査に興味を持たれるようになりまして、証券会社の方や銀行系の研究所の方、あるいは広告代理店の方もみえるようになりました。それも継続は力なり、が示されたものと解釈しています。12年の間に、企業不祥事が頻発し、企業のガバナンスや、行政の不作為などが問題化し、より良い社会を作るには消費者・生活者の視点が重要だと再認識された結果でしょう。また、資本市場で社会的責任投資が広がる兆しを見せていることも大きいと思います。ご存知かと思いますが、社会的責任投資と訳されているのはSRI(Socially
Responsible Investing)ですが、アメリカでは既に2兆ドルの規模に達していると言われています。どういうものかといいますと、自分の気に入らない企業に資金がいかないようにするという、ネガティブなところから始まっています。当初はキリスト教団体の持っている財団が、バクチ、兵器、アルコールに関わる企業には投資しないようなファンドをつくるところから始まりました。その後、CEPが昔からやってきたことですが、自分の価値観に合致する企業に投資するという積極的な動きになっています。
企業規模や提供する製品やサービスの質・価格のみではなく、社会にとって良い企業、存在していて欲しい企業という観点が我々の生活にも生まれているのではないでしょうか。
私がエキスパートだとか言われるようになりましたが、将来にわたって続けるつもりだったら、もう少し予算が取れないと、将来ある若い人を引き受けるわけにもいきません。しかし、朝日新聞社が立派な賞に育てたいと言ってくれるようになりました。
これからは朝日新聞社が中心的な役割を果たすようになると思いますが、当初からの社会運動的な精神が失われずに、かつ永続性を持てるシステムを考えていきたいと思います。
(いながきしげお)