20年位前、ボロニアに行ったとき、イタリア経済は本当に破綻していました。ところが、地域の人々は全然困らない。いまアルゼンチンでも、もしかしたら地域通貨などをやっているところは、アルゼンチンの通貨が破綻したとしても困らないかもしれない。これも近々、一度見てこようと思っています。やはり協同組合のキーは地域社会の中において協同原理が生きる、そしていろいろな機能を重層的につくる。だから協同組合、地域社会づくりを提案したわけです。
私が今回行ったのは、自分が仮説を立てたことが現実的にヨーロッパの中でどう動いているのかを確認することでした。その結果、間違っていないと今回断定してもいいのではないだろうか。ヨーロッパがモデルであると言っているわけではなく、ヨーロッパを参考にしたときに、組み立て直した結果はどうだろうか。組み立て直しは、レイドロウが言った「2000年の協同組合」の4つのテーマと組み合わせながら、協同組合・地域社会づくり、こういうテーマにしたわけです。
今回、痛切に感じたのは、学校と銀行が持つ役割です。学校と銀行を持たないと、協同組合は地域社会の中で、いくらいろいろな機能をつくったとしてもなかなか勝てないということ。これは今日、協同組合運動をやっている人たちにとっては最大の課題です。それから、なぜ生協は銀行ができないかということですが、要するに協同組合基本法がないから、個別法に縛られて結局は生協は銀行ができない。資本主義社会の中で資金問題を抜きにして持続するのは非常に難しいということです。
モンドラゴン協同組合群の強さというのは、徹底した現実主義です。だから協同組合思想でやっているというけれど、彼らがやっていることは、労働主権概念がキーです。それは何かといったら、そこで働く人たちを中心にしてあらゆることをやるという考え方です。ヨーロッパ市場で、彼らが勝っているのはなぜかというと、基本的にはEUの中における途上国だと思っていただければいいと思います。労働コストが安いんです。フランスとかイタリアに比べて、スペインの労働コストが安い。そこでつくるものの輸出競争力はあるということです。ですからモンドラゴンの生産部門は、輸出が約半分ぐらいを占めています。そして徹底した地域内の雇用創出です。彼らは中国やブラジル、アルゼンチンにも工場を持ち、多種多様なものをつくっています。多国籍企業と同じ位、凄まじい勢いで生産工場を世界的に展開し、なおかつ、それらを持ちながらバスク地方でも雇用拡大をしているのです。
しかし、モンドラゴンには10の基本原則がありますが、それは破っていない。開かれた加入制とか、民主的組織で一人一票制とか、労働の主権とか、手段としての資本であって、資本を稼ぐことを目的にしない、これもはっきりしています。それから自主管理、公衆での連帯、グループ内での協同。要するに、いろいろな業種を持っていますから、そこの中を横につなぐ。それからバスク地方の社会変革を目指すことと教育です。それらの10原則は、前に掲げていたこととほぼ変わらないということです。
では、それだけのことをやっていて、閉鎖した事業部門があるかと質問したところ、部門によっては閉鎖はあると。そこで働いていた人たちをどうするのかと聞くと、学校で再教育する。学校を持っていると凄まじいというのは、そこにある。要するにある部門を閉鎖すると、そこで働いていた人を、学校の中で技術を習得してもらい、新しい職場に配置換えをする。こういうことを部門間でやっています。ですから、雇用が減少しない。
それから、資本はどうしているかというと、銀行を持っています。これが世界の銀行の30番目位に位置すると思います。そのファンド(原資)は何かといったら、労働者に、働いた結果残ったものを労働分配するわけです。それを積み立て、辞めるときに退職金のようなかたちにしておいて、それがファンドとして動いているということです。かなり莫大なお金です。労働者自身の出資で成り立っている。借り入れが非常に少ない。ほとんどゼロに近いだろうと思います。地元からの借り入れについて聞いたときに、それについてもあまりないという言い方をしていました。そういう意味で、多国籍企業とどう戦うかに関して、モンドラゴンは世界に展開しているということです。
フランスでは労働者生産協同組合を訪ねました。ここで発見したことは、イタリア、フランスでは制度として協同組合が位置付けられているということです。憲法の中に位置付けたり、基本法として存在しているわけです。ですから、労働者生産協同組合に関しても、法律を変えさせることを徹底してやって、新しい法律がすでに施行されています。そして、この動きはフランスもイタリアも同じだと思って欲しいのですが、失業問題に対する対策として、小さな地域事業、これが圧倒的に多い。
もう一つは、公的福祉の行き詰まりです。福祉社会の行き詰まり。それに対して、NPOを含めて展開するというかたちです。これも両国同じだと思っていいと思います。それをどんなかたちでやるかは若干法制度が違う程度のものです。今までは大まとめにやっていたものが、障害者なら障害者、アル中ならアル中という具合に整理されて分化されてきている。事業自体は、非常に小さな事業主体とみていいと思います。10人とか30人とか、そんな規模でやっている。それらに関しては、皆さん方がやっている枠組みは、僕から言わせると、日本の方が先取りしていると思います。向こうは制度があって、それに追随している。日本は制度がなくて、それを組み立てている。この差ぐらいです。ただ、向こうは制度で保障されている分だけ、重層的にやられている分だけ強いです。少々経済が落ち込んでも人々の生活は困らない。これは日本とまったく違います。非常に安定した枠組みで動いていて、一つひとつのことが行なわれています。
それから、もう一つ、レガ自体は成功しています。伸びているんです。その中で問題になる項目は、小売流通業じゃありませんか?と質問をしました。若干誘導したかもしれませんが、スペインのモンドラゴンでもエロスキという小売部門、これはやはり問題なんです。レガも、スペインのエロスキもうまくいっているんですが、要するに、合併してある程度整理され、そういう意味でうまくいっているわけです。私が、この部門は一番不安じゃありませんか?と質問をすると、やはり今後、これが一番問題だという答えが返ってきました。なぜ問題なのか。これは日本とまったく同じだと思います。日本は、まさにそういう意味でいうと、流通業は完全なる不況業種ですね。不動産、建築もそうです。銀行もそうですね。それと同じような意味で私は言ったつもりはないんですが、そうではなくて、小売流通部門は、どのような生活をするかと誰も読みきれなくなっているんです。不足したものをキャッチアップするという枠組みで、モノを供給していけばいい時代は終わった。先進国の消費マーケットは、完全に飽和状態になった。過剰生産、過当競争は、飽和の中における競争になっています。だから、どういうものをどうつくったらいいか、誰もよくわからないのが実態です。だから、とりあえず合併しながら、多国籍企業と戦う準備はレガでも、スペインのエロスキでもされていますが、なかなか難しい。スペインの場合、フランスの多国籍企業が入ってきている。そこと争うことになるわけです。そこでスーパー業界と同じかたちをとっていたらうまくいかない。レガもエロスキも全体は伸びていながら、一番大きな課題は小売流通部門だというはっきりした回答でした。私たちも今後どうするか、これからの問題として検討しなければいけないと思いますが、非常に重要な示唆だと思います。
それから、もう一つの共通問題としては、失業対策としての地域事業ですが、これは共通していました。雇用を創出するという意味で、これは地域事業と言っていいと思います。多くの場合は人間関係性に関わる事業が中心になり始めている。要するに、高齢化・少子化も同じですが、人々の生活に必要な機能というのは、人間の関係性で、人間の機能を維持することは、なかなか企業ではできない。その事業というのは供給する発想ではなく、聞き取る能力が圧倒的だと思います。だから五感を研ぎ澄まさないとできない事業になってきている。このことははっきりしてきたと見ていいだろうと思います。
これから生活クラブがどういうことをやっていかなければいけないかということをお話しします。今回ヨーロッパ、特にイタリアへ行って思ったのは、連合会でやらなければいけないことは、「制度政策」だということです。本当は協同組合基本法をつくって、その下に各種法があるべきなんです。基本法が先にないと無理だと、つくづく感じました。
もう一つ、我々がこれからヨーロッパに行く場合、視察はもうやめた方がいいというのが私の意見です。もう視察している時代は終わった。今は課題設定して真っ向から議論する時代です。イタリアでもレガがこれだけ有名でありながら、先進資本主義国の中で多国籍企業とどう戦って、どう生活を維持していくかというのは、相当議論して先取りして仮説を立てなければならなくなっている。その意味で、世界であちこちやっているところが集まって議論する必要が出てきた。これから次の時代を担う若手の指導者を連れて、テーマを決めて彼らと議論して、たとえば先進国の生活の仕方、要するに食文化をどうするのかとか、いくつかテーマを絞って議論してみる。それから多国籍企業と戦うために、前提条件として何を一番にすべきなのかとか、いくつか要素はあるだろうと思います。
そうすると、今度は生活クラブにおける共同購入活動を中心とする生活クラブ生協の位置です。これも少し整理していかないといけないと思います。私は十数年前に、協同組合における地域社会の中の多軸重層型組織論を提案しました。ある規模になると、システムは官僚化する。大きな組織になるほど討議に時間がかかる。時代を先取りするのは、相当優れたリーダーがいて、批判されることをいつもニコニコして喜んでいるリーダーじゃないと、仮説は立たなくなるわけです。批判されないレベルのことでは、結局は後追いになってしまう。そうすると、それぞれの機能別に組織を自立させて、そして連合化するということをしていく方がはるかにいい。だから多軸重層型の組織という概念で提案をした。
この10年間、いま首都圏の4単協は相対的に活力が低下しました。その間政治のネットワーク運動は元気になって、ワーカーズは元気になって、福祉クラブは元気になった、みんなそうやって元気になっているわけですが、本体そのものが一番低下した。なぜそうなったかというと、仮説が立たなくなったからです。要するに、どういう食生活をするのかという食文化論が提起できないと駄目な時代になったんです。
生活クラブの位置というのは、いま協同組合の学校はないわけですから、基本的には学校としての位置は、購買事業をやるところが担ったらいいと思います。なぜなら、生活クラブに入る動機としては、食の安全性が、子どものことも含めて一番大きいということです。もう一つ、その食の問題を通して経済の仕組みを理解しろと私は言いたい。経済の仕組みを理解しない限りは勝てない。経済の仕組みを改善できない限りは、やはり駄目だろうと思います。限界があるなら限界があると言い切っていいし、地域経済なら地域経済でいいんです。問題点をはっきりさせ、できること、できないことを時間軸で区切れば、経済の仕組みに対する戦いの仕方というのは、もう少し考えられるだろうと思います。
前の5年間でいうと、大きな事件が3つあったと思います。1つはビン牛乳をやって利用人員率が伸びたということです。ビンに代える理由は、紙パックの容器は口が開いてしまので、匂いを吸ってしまうこと。それから、中身が見える、これも1つの理由になると思います。でも、これだけ「簡単便利」と言われる世の中で、簡単便利ではないものがなぜ伸びたのか。もしかしたら近代の生活スタイルに対して、何らかの反省があるのかどうか。これは是非考えなければいけない。
もう1つは、北海道の生活クラブが中心になってやった、反原発に対して風車をつくる運動。あの運動がなぜ成功しているのかというと、技術に関して公開制度が高くなって、我々が理解できるようになった。専門性といっていたものから、市民が使えるような技術までできてきたと見ていいでしょう。自分たちの自己責任において、お金を払ってやることが一つの価値になった。
もう1つは、NON-GMOの市場の形成です。これに関しては、もっと生活クラブは自信を持っていいと思います。一つの新しい市場が形成された。要するに、遺伝子組み換えした大豆やトウモロコシの市場と遺伝子組み換えしない大豆、トウモロコシの市場が形成された。今、食品業界は管理されています。その代名詞に、生活クラブがやってきたポストハーベストフリーのトウモロコシ、NON-GMOのトウモロコシ、それらをやった結果が仕組みとしては社会評価を受け、市場が形成された。
このように3つの大きな、まさにグローバルに動いている事件がありました。ただ、このようなことが、我々がやっているときに、最後は「安全な豚肉」、「安全な牛肉」、「安全な鶏肉」とか、いつの間にか現象面で判断されてしまうわけです。それをもう少し社会化する力を高めないと、勝てないのではないか。その意味で3つの新しい芽はあると、はっきり言っていいと思います。この3つの芽をどうやってもう少し理論的に整理をして高めていくかが、いま連合会に問われている課題です。GMOに関しては、遺伝子組換えイネの問題や、コーデックスの問題をやりながら、これは一つの広がりを持っているわけです。
私は自分の視点でヨーロッパをで見てきただけですから、私の話が正確だとは全然思いません。私は私が仮説を立てたことがどうだったかということで見てきただけですから、それ以上でもそれ以下でもない。そして、次に行くときは若手を連れて討論しに行こうと思っています。特に、ヨーロッパの食文化の問題と我々の食文化の問題がどうなるのかをやっていかないと、多国籍企業と戦う方法は整理がつかないだろうと思っております。
(こうのえいじ)