この3月まではアメリカにいて、ジャーナリストとして、NPOや市民参加といったことを取材してきました。今日は、NPOとそれを成り立たせている背景、とくに行政の市民参加について、いい事例がアメリカにたくさんあると思うので、その点を紹介していきたいと思います。
アメリカの場合はとにかくNPOセクターが大きいということです。日本とアメリカは全然国情が違うから、NPOは日本では根付かないと、多くの人が言っていますが、かつての生協と同じようにやがては日本の方が素晴らしいNPOセクターをつくり上げて、21世紀、大いに日本を変えていくのではないかと私は思っています。
しかし、今の段階ではアメリカのNPOセクターの方が非常に大きいです。日本のNPOは、既に宗教法人とか学校法人とか、あるいは公益法人とかがある中で、もう一つ新しい法人制度としてNPO法人ができたという位置付けですが、アメリカの場合にはあらゆる法人全部をひっくるめてNPO法人といっています。日本では、NPO法人は5000ぐらいだと思いますが、アメリカでは日本の株式会社の数よりも多くあり、雇用が、ボランティアを除く有給職員だけでも1000万人を超えているということで、連邦と州の公務員の数よりも多いNPO職員が働いています。だいたい女性が中心で、7割近くが女性ですが、こちらのNETの運動もそのようですね。
NPOセクター全体の予算規模をみますと、だいたい日本の国家予算に匹敵するぐらいの規模です。アメリカ連邦政府予算の40%ぐらいということで、連邦政府のほうは税金を通じて市民からお金を集めて公共サービスを展開しているわけですが、それとは別に、40%の規模にあたるNPOセクターがあって、税金ではなく寄付などによる市民から集めたお金で独自の公共サービスを、政府とは別の回路で提供しています。
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サンフランシスコの街は、中心街には高層ビルなどが多くて、都市圏全体で人口700万人ぐらいの街です。
サンフランシスコは人種的に多様な街です。アメリカの大都市では白人の人口は半分を割っていますが、カリフォルニア州も、2000年の国勢調査では、白人人口が半分を割るというかたちで、大きな人種的な転換が起こっている州です。
そのような中、中南米系の学生たちは、主な大学内に民族的な研究科をつくれというデモをやっています。これも、かなりアメリカでは実現していて、大学には黒人の民族研究科や、あるいは中南米系の民族研究科、アジア系の民族研究科は必ずあります。小中高生対象にはバイリンガルスクールがあって、そこでも自分たちの母国語で教えるという、バイリンガル教育を連邦政府の資金でやっています。
サンフランシスコ都市圏の中、バークレーにはカリフォルニア大学があります。カリフォルニア大学が、実は60年代の学生運動の発火点になった大学です。1964年という早い段階で、大きな学園闘争を行ない、そこでスチューデント・パワーという言葉が生まれて、全米に広がった。やがてパリにも広がり、日本へも60年代後半に広がってきました。サンフランシスコ地域というのは常にそういう新しい文化を生み出してきたところです。
企業も、活発にNPO支援をやっています。ジーンズのリーバイスの本社がサンフランシスコにありますが、これは全米でもかなり活発にフィランソロピー活動、企業の社会的貢献活動をやっている企業の代表です。そういった盛んな活動、あるいはNPO活動が盛んですので、日米のNPOの交流も非常に盛んで、日米交流を助けるような団体もたくさんあり、NPOの交流視察などが活発に行なわれています。
サンフランシスコの中央図書館は、全米で一番進んでいる電子図書館といわれているところです。サンフランシスコの近くには、シリコンバレーもあり、インターネット革命の一番先頭に立っています。この中央図書館だけで、内部に300台のインターネット端末が置いてあります。利用は無料です。
ですから、家にパソコンがない人、インターネットが使えない人でも、この図書館に行けば無料でインターネットが使い放題です。今では、無料でインターネットが使えるというのは、アメリカでは常識になっています。ですから、インターネット時代にもてる者ともてない者の差が拡がるといわれていますが、そういう格差をなくすために、公共図書館がかなりの役割を果たしてきているわけです。
アメリカのNPOの力を一番端的に示すのは、やはり低家賃住宅の建設ではないかと思います。日本だと、低家賃住宅というのは、市営住宅、県営住宅となっていますが、アメリカではNPOが全部つくっています。昔はアメリカでも行政が低家賃住宅をつくっていました。けれどそれだとどうもうまくいかない。あまり市民に好まれる建物がつくれないし、市民に自分の建物だという意識がわかないと、地域はスラム化してしまうという状況があり、全部NPOに任せた方がいいという了解が70年代以降出てきています。ですから、今では低家賃住宅は、ほぼ全部NPOがつくっています。もちろんお金は行政から出させますが、開発主体はNPOが中心になっている。そういうかたちの低家賃住宅がアメリカには至る所にある。これは、かなり日本と違う点だと思います。行政が分担しているところと、市民が分担しているところが違うという、はっきりした差です。
多様なものがあるということでいえば、パブリックメディアセンター、よく日本の団体などもお世話になります。例えば『ニューヨーク・タイムズ』に意見広告を出すときに、ここがいつもやっています。NPOの広告代理店です。広告代理店というと、企業しか頭に浮かばないですが、アメリカではNPO向けの広告代理店があって、活発な意見の広告などで自分たちの主張を新聞に載せる活動の拠点になっているNPOもあります。
NPO自体をもっと強めたいと行政主導のNPOサポートセンターが最近日本にもできていますが、その元祖みたいなところです。日本では、だいたい行政がつくるんですが、アメリカではもちろん全部NPOがつくっています。
また、びっくりするような行政とNPOのパートナーシップですが、外国人労働者に日雇い労働を、つまり職を斡旋している団体があります。それがサンフランシスコ市のプログラムとして正式に認可されてやっている。ここでは、ちゃんとしたビザを持っているかどうかということをチェックしないで職を提供しています。NPOでもこういうヤバイことをやるためには、市を巻き込んで連携した方がいいという戦略をもって、わざわざ市を巻き込んでやっているわけです。
市の方でも、外国人保護区宣言というのをあげていて、われわれは自治体であるから、連邦政府の業務である出入国管理、移民法の取り締まりには一切タッチしないという宣言を出しています。日本では警察と入国管理局が一緒に外国人取り締まりをします。アメリカでは、警察は基本的に自治体警察で、サンフランシスコは市警と移民局の協力をやらないと決議して、条例にもしています。移民局の捜査などに協力した市の職員に対して、罰則も設けています。
次に、自治体が日本とかなり違うというお話します。議決権は、もちろん市議の方にあるわけですが、アメリカの市議会は、住民集会という雰囲気です。傍聴は当然です。発言もできます。発言を押さえてはならないという州法があります。発言する際に、資格などを一切聞いてはいけないと、これも州法にあります。ですから、この街の住人かどうかとか、アメリカ国籍を持っているかどうか、もチェックしません。そのような市議会での発言を、パブリック・コメントといいます。
日本でも今、パブリック・コメントという制度ができています。日本では文書での意見提出ということですが、元々はこのようなかたちで、地域の住民が市議会に集まってきて、どんどん意見を言うことをパブリック・コメントといっていました。連邦政府段階になると、市民が行ってそこで発言するというのは無理ですから、一般からの文書等での、あるいは電子メールでの意見提出というかたちになります。
アメリカでは何歳になっても、何にでもなれます。日本だと、公務員の採用もそうですが、昭和何十何年生まれ以降の人とか、何歳以下の人とかありますが、あれはアメリカでは違法になります。 「年齢差別禁止法」があって、これは連邦政府の法律ですが、履歴書などに年齢を書く欄をつくってはだめです。そんな履歴書があったら違法になる。ましてや、新聞などの求人広告に何歳以下とか書いたら、それは絶対違法で、多額の罰金を取られます。
それから性別を書く欄もだめです。アメリカの履歴書は、性別を書く欄もないし、年齢を書く欄もないです。写真を貼る欄もないです。 [スライド終了]
もう少し自治体とか行政について説明し直します。アメリカについてこれほど紹介されているのに比較的知られていないのは自治体の制度です。さきほどの市議会の説明でも、若干それはわかったかと思いますが、アメリカでは、住民投票で自治体をつくると決議してから初めて自治体ができます。市民が決議しなければ自治体がないんです。アメリカには1億人ぐらいが自治体のない所に住んでいます。これは日本では考えられない。日本では自治体といえば行政の末端機構ということで、国があって、県に分かれて、県がさらに自治体に分かれていて、自治体の領域から漏れる所はないわけですが、アメリカの場合には、州があって郡があります。郡は、州によって全然違いますが、普通だとあらゆる地域が郡に分かれています。その下に自治体があるわけですが、この自治体は、あくまで市民がつくるもので、つくりたくなければ、ないんです。自治体がない場合には、郡の行政が若干のサービスを提供するかたちになります。
ですから、自治体はNPOであるという認識を私はもってきました。行政というよりもNPOに近い。つまり、領域をもった全員加盟性のNPO、それが自治体ではないかというイメージです。だから行政とNPOとの境というのがだんだんわからなくなってきたという感じがします。
どういうふうに自治体をつくるかというのは州によって違いますが、自治体のつくり方を書いたパンフなどもあります。市議は基本的にはボランティアです。カリフォルニア州法、自治体法ですが、この規定をみると、例えば35,000人以下の市の場合には、月給が300ドルである。それ以下でもいいんですが、最高で300ドルだという規定です。人口によって若干違いますが、このように市議がもらうのは名目的な賃金です。市長も市議の互選で選ばれますから、市長もボランティアです。
自治体法もまた違っていて、日本では「地方自治法」に従わなければならないですが、アメリカの場合には、憲章市(チャーター・シティ)といいますが、自分のところで憲章をつくる市というのがあり、そういうところは自治体法に従わなくてもいいんです。
そういうことで、NPOも違うけれど、自治体もかなり違うなということです。日本の自治体は今、市町村合併でどんどん大きくなっていますが、アメリカはむしろ小さくなっている。今の段階でアメリカには36,000の自治体があります。アメリカの統計年鑑の数字をそのまま出しましたが、数え方が面白いですね。政府の数なんて、日本ではあまり考えませんが、アメリカには政府の数を数えるという統計がありまして、連邦政府もちゃんと一個に数えられています。そのほか、州政府があったり、郡政府があったり、自治体もいろいろな自治体があって、合計約9万ですが、通常のいわゆる日本の市町村にあたるようなものだけでも36,000ぐらいあるということで、非常に多数あります。市町村合併しませんから、小さい自治体もあり、アメリカの自治体の半数は1,000人以下の自治体です。中には100人とか10人とか、そんな自治体もあります。
アメリカでは、情報公開法と並んで公開会議法が、車の両輪というかたちで発展してきています。これも重要な法律だと思います。日本でも、ようやく情報公開法ができましたので、今度はこの公開会議法の番ではないかと思います。情報公開法の場合には、行政、つまり官僚、役所の情報を出す制度ですが、公開会議法の場合には、国会もそうですが、市議会とか立法機能の透明性を図るということです。そこに主眼があるわけで、その過程に市民参加を促進していく。これは連邦段階にもありますし、州段階にもありますし、各自治体でつくっている場合もあります。大体どこの州レベルでも同じような公開会議法をつくっていまして、先ほど言ったように、市民の発言する権利をここで規定しています。しかも、誰でも発言させる、資格は問わないということも規定しています。
私が言いたいのは、さまざまな、多様な市民参加制度がある中の一つがNPO制度じゃないかということです。これだけ活発な市民参加制度があると、行政も市民のものだという意識です。日本だと、行政対市民という感じで、あたかも水と油のごとく違うものの間柄であって、その間のパートナーシップだとか、対立というかたちで考えますが、アメリカでは行政も市民の意思を代表するものであり、NPOもそうであるということです。共に市民社会をガバナンス(自治)していく上での異なる二つの方法にすぎないというとらえ方がアメリカにはあります。アメリカの場合には行政自体も市民がコントロールしているものだという意識があって、それだけでは足りない部分を、NPOという別の直接民主主義の形態で補っている役割をしていると思います。
行政に頼らないようなNPO的な、直接的に活発にやってしまうような公共サービスを一方ではつくっていく必要がある。産業界の側でも、大企業が全部推し進めていってしまうのではなく、どんどんベンチャービジネスが出てくるようなSOHO的な、あるいは市民ビジネス的な、ワーカーズ・コレクティブでもいいですが、小さいものがどんどん下から湧き起こってくるような形態が必要になっている。公共サービスの中でも、全部行政任せでやらせるのではなく、市民がある程度直接的にやってしまうような、下からどんどん活発にやっていく社会をこれからつくるのが、21世紀の市民社会づくりの基本だと思います。